「足を組む」について考える
先日、理学療法士さんを招いて解剖学の勉強会をしていたところ、ひょんなことから「足を組むことが人体にどんな影響を与えるか」ということが話題になりました。
インターネットで検索してみると、「足を組むと体が歪む」というような説が山ほど出てきます。
左右の足を組み替えてバランスをとればいいかというと、そういうわけでもないようで、「交互に組むことで体の歪みが複雑化する」という説すら出てくる始末。
「足を組む」=悪。
でも、それって本当なのでしょうか。
全然別なテーマからはじまった解剖学講座は、いつしか、座り方研究会に様変わりしていきます。
もしも足を組み続けたら・・・
「足を組み続けることによる弊害は確かにあるはずだ」と理学療法士さんは言います。
まず「足の血流が悪くなる」。
それから「骨盤が歪む」。
さらには「背骨が歪む」。
もちろん、恒常的にそういう状態になれば健康に支障をきたすに決まっています。
じゃあ足を組むのは根本的に避けたほうがいいのかというと、必ずしもそうとは言えないようです。
「これらはあくまでも『足を組み続けた場合』に起こる弊害だ」と理学療法士さんは続けます。
もちろん人間の体だってバカじゃありませんから、そんなふうに体に異常が出る前に不快感を感じて、無意識に姿勢を変えているはずです。
もし体に支障をきたすほどに足を組み続ける人間がいるとすれば、その人の心によほどの歪みがあるか、生活環境にひどい歪みがあるかのいずれかでしょう。


人はなぜ足を組むのか
そもそも、わたしたちは意識的に足を組むことはほとんどありません。大概は、ふと気がつけば足を組んで座っているものです。
では、なぜわたしたちの体は敢えて足を組もうとするのでしょうか。
諸説あるようですが、「重心の調整」という説がもっともらしいように私は思います。
いわゆる「正しい姿勢」というものでも、長時間その姿勢をキープし続けるのは困難なものです。
同じ筋肉に負荷がかかり続け、血流が同じ場所に滞り続けるからです。
実際に意識的に足を組んでみると、重心が変わり、解放される筋肉が出てくるのがわかります。
腹筋のあたりが緩むような気がしますし、重心のかかっていない方のお尻の血流が良くなっているようが気がしてきます。
よく考えてみると、人間の体は日頃、指定された椅子に是が非でも座ることを強いられています。
当然、そんな椅子が個人の体にぴったりフィットするなんてことはまずあり得ませんから、体の側で調整して環境との調和を図る以外にありません。
強いられた環境で正しい姿勢を取り続けたら、理学療法士さんの指摘するような「血流の悪化」「骨盤の歪み」「背骨の歪み」が起こりかねません。
体自身が健康被害を最小限に食い止めるために、敢えて足を組みながらバランスをとろうとしているようにも思えてきます。
結局、理学療法士さんをまじえての議論でも、「足を組む=悪」に関する決定的な根拠を見つけ出すことはできませんでした。
むしろ、足を組むのはいいことのような気さえしてきます。
心理学的観点からみた「足を組む」
ここでちょっと視点を変えてみましょう。「足を組む=悪」説はもしかすると、体ではなく心の側に端を発したものなのかもしれません。
心理学には「シンメトリー効果」というものがあります。
シンメトリーとはつまり「左右対称」のことです。
人間は左右対称なものには安心感や誠実さを覚え、左右非対称なものには不安や恐怖を感じるという性質があります。
これがいわゆるシンメトリー効果です。
当然、足を組んでいると左右非対称になりますよね。
これが見る人に不安感を覚えさせている、という可能性は十分にあります。
特にも学校や会社といった場所では、調和が重んじられ、誠実なふりをすることが求められます。
こういった場所に一人だけ足を組んでいる人間がいたとすれば、「和を乱す者」とのレッテルを貼られ、悪者扱いされかねません。
もっとも、姿勢が変われば見た目が変わるというだけで、人間性までが即座に変化するわけではありません。
つまり言い換えれば、正しい姿勢は「公」を示すポーズであり、足組みは「私」を示すポーズなわけです。
気心の知れた人たちの前で足を組めば打ち解けていることを示せる反面、初対面の人や目上の人の前で披露すれば傲慢不遜と思われることでしょう。
実に面白い「足を組む」の世界
たかが「足を組む」という動作ですが、考えはじめるととっても奥深い現象であることが見えてきます。
足を組むことが体に悪いかどうかについては今後さらに検証してみる必要がありそうですが、場違いなところで足を組むと「印象」が悪くなることだけはどうやら確実のようです。
足を組む時にはなにとぞお気をつけください。



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